病院を温かな空間に。患者さんを対象にしたアートプログラムを実施しています。

ホスピタルアート実践レポート09 ~上を向いて歩こう ~

ホスピタルアート実践レポート09 ~上を向いて歩こう ~

長期にわたる入院と闘病生活を続ける人に、今一番したいことをたずねたら、意外な答えが返ってきた。
「人が喜ぶこと、だれかの役に立つことをしたい!」
それは人間を元気にする源のひとつであるようだ。重症な人ほど、自分ひとりでは身の回りのことさえ何ひとつできなくなる。看護師さんや家族など、人にしてもらうばかりで自分が何もできない無力感と、誰にも必要とされない孤独感を感じるのだという。
「自分にもまだできることが残されている!人の役に立つ!と思うと力が湧いてくるの。」
そう言った末期癌のアーティスト、一瀬晴美さんと、済生会栗橋病院内でアートスライドショーを行った。

まずは彼女に教わりながら、患者さんや家族、職員がそれぞれ、自分が美しいと思う世界を万華鏡のようにフィルムの中に閉じ込める制作作業を行なった。そうして仕上がったスライド50枚と一瀬さんの作品30枚による、夏の午後のスライドショー。ミュージシャンのチャーリー高橋氏も即興生演奏で不思議なBGMを奏でてくれた。
スライドが換わる毎に誰の制作か尋ねると、患児が誇らしげに、女性の患者さんは嬉しそうに、また男性職員が照れながら手を上げた。みんなで創った和やかな時間。途中、次々増える入院患者さんの器具に必要な電気コンセントが足りなくなったり、車椅子の出入りスペースが想像以上に必要だったりと、実施して初めて気付く点も多かった。

後半は望月沙矢佳さんの童謡をうっとり聞くコンサートになった。そして最後は、外科手術前のわずかな時間に駆けつけてくださった本田宏先生の先導の下、参加者全員で「上を向いて歩こう」を歌った。
患者も先生も看護師も、ひとりの人間として平らに心つながった2年前のあのひとときは、一瀬さんの笑顔と共に今も忘れられない。

Wonder Art Production/Hospital Art Lab.
代表 高橋雅子

月刊「病院」(医学書院)2006年3月号掲

 
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